哀歌

土井晩翠

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同じ昨日の深翠り 廣瀬の流替らねど もとの水にはあらずかし 汀の櫻花散りて にほひゆかしの藤ごろも 寫せし水は今いづこ。 心ごゝろの春去りて 色こと/″\く褪めはてつ 夕波寒く風たてば 行衞や迷ふ花の魂 名殘の薫りいつしかに 水面遠く消えて行く。 恨みを吹くや年ごとの 瑞鳳山の春の風 をのへの霞くれなゐの 色になぞらふ花ごろも とめし薫りのはかなさは 何に忍びむ夕まぐれ。 暮山一朶の春の雲 緑の鬢を拂ひつゝ 落つる小櫛に觸る袖も ゆかしゆかりの濃紫 羅綺にも堪へぬ柳腰の 枝垂は同じ花の縁 花散りはてし夕空を 仰げば星も涙なり。 池のさゞ波空の虹 いみじは脆き世の道を われはた泣かむ花の蔭 其花掃ふ夕風に 蝴蝶の宿を音づれて 問はん「昨日の夢いかに」 春を誘ふて蜂蝶の 空のあなたに去るがごと 玉釵碎けて星落ちて あはれ芳魂いまいづこ 殘るは枯れし花の枝 盡きぬは恨み春の雨。 盡きぬは恨み春の雨 ともしび暗きさよ中の 夢のたゝちをいかにせむ ありし昨日の面影に 替はらぬ笑みも含ませて 名におふ花の一枝は 嗚呼その細き玉の手に。

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