すべての友達に送る手紙(十一月)
本文の表示
覺醒はそれ自身でひとつの誕生だ
ひとつの新しい靈魂の生活だ
私は餘り多くない、併し親みのとりどりに深かつた友達にかう言ひたい
私は今あなた方や、また君達のことを思ふと限りなく深い負債の沼にはまつて行くばかりだ
そして今頃それを言ひ出す程
私のした事はあらゆる冒涜である
人の心の冒涜である
ああ私はあらゆる淨い氣高い土地をかうして今までむだに涜して來た
今こそ自分自身の魂からもの言はう
私は一時乞食であつた
瞞りであつた
泥棒であつた
そして苦しく蒼ざめて氣むつかしい
つむじまがりの幽靈であつた
それに欺されたのが口惜しかつたら
皆で手いつぱいに憎んでくれ給へ
私は人を欺した覺えはないが
自分が未だ生れないのを
生れたと思つた罪がある
そこで冒涜した
人の心を冒涜した
私はこの負債をいつ拂へよう
人に犯したこの罪は
一生ぬぐへまい
私には悲痛な深刻な魂が
今日を覺してゐる
よりどころのない、併し確な一歩が踏みだしてある
今までの死殼を蹴飛ばして
心から出る産聲をあげる處だ
つむじまがりの幽靈は面變りして
あかく灼熱した眼を燃しながら命令してゐる
私こそ人生に貸がある
母胎のかげでうごめいて居る
私こそまことの怖しい債鬼だ
人生の奧にその貸が匿してある
抛りつぱなしで貸つぱなしな
今まで知らなかつた手強い貸がある
まづ私は森林に火を放けて
ひとかたまりの野獸を追ひださう
苦しい惡鬼を吾れから振ひ落し
吾から肉體にせぐりあげる
深いすすり泣きの聲を聞かう
これこそ烈しい命だ
これ以上の眞實なライフが私にあるか
これこそ止みがたい魂の誕生だ
もはや冒涜でない
悲痛で不安な燈火はをやみなく明滅する
とりどりに美しく寶石はときめいて
もろもろのさびしい涙を薄暗がりでときあかす
私の心はいつもただひとつで
不思議な斷末魔の啜泣きに耳をそばだてる
私の心はいつもただひとつで
皿の油火はをやみなく明滅する
これこそ私のあげる聲だ
せぐりあげる産聲だ
魂はめざめればめざめる程悲痛になり
或る宣告が耳にとどく
私は怖しい債鬼だ
しどろもどろの影がまはりの壁にうつる
足どり亂して響きのない影が街中をふみまはる
薄白い焔はその間をやみなく油皿の中からゆらめいて
斷末魔のすすり泣きに耳を澄ます
ああ私は怖しい債鬼だ
ログインすると、お気に入り登録や選集への追加ができます。
ログインすると、この作品に自分だけに見えるメモを残せます。
すべての友達に送る手紙の談話
疑問や連想、ちょっとした読み方などを気軽に話せます。
まだ投稿はありません。
すべての友達に送る手紙に寄せられた作品
詩から生まれた翻案・イラストや、朗読・解説などの関連リンクを持ち寄れます。
まだ投稿はありません。
批評・感想 0
作品の表現や構成を検討し、根拠を示しながら評価・講評する場所です。
まだ批評・講評はありません。
ログインすると批評・講評を書けます。