水の音

舟川栄次郎

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-泊町小川溫泉蠶山闇にて- 微風が机の上の詩集を 人生の歩みの半ばをよんだ私の詩集を吹き こころよい音をたてて一一·三頁をめくつた あとはひつそりしてそのひつそりした圈に私は起つ 初冬の午后の陽ざしが障子へきて まばらなさくらの枝影が はにかんでゐるもののやうにちらりちらりする そこからもう一つのしづかな 明るいところへつづいてゐるらしい 庭へ流れて落ちる水の音が 私のおなかをすつきりさせる もはや手をのべさえすれば しろ 潔いものに觸れ得るような心地がする 私はいまこそ温いものの翼に乘る 私は誰はばからずしづかな戀情を育む 萬人に感謝を捧げる 世界の何人をも畏れぬ 私はいまこそ力に充ちて私の生命をたたへる けだか 崇高い私をみる 水の落つる音のかげが この世のものならぬひそけさのなかへひろがつてゐる どこやらで寂びた話聲がする 私はもうここからでたくはない

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