紫色の感情にて

萩原朔太郎

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ああその燃えあがる熱を感じてゐる この熱の皮膚を しばしば貴女にささげる憂鬱の情熱を ただ可愛ゆきひとつの菫の花を 貴女の白く柔らかな肌に押しあてたまへ ここにはまた物言はぬ憂愁の浪 紫をもて染めぬいた夢の草原 ああ耐へがたい病熱の戀びとよ 戀びとよ 今日の日もはや暮れるとき 私は貴女の家を音づれその黒い扉の影に接吻しよう しほしほと泣く心の奧深く 貴女はその惠をたれ 慈愛をもて久遠の道を聽かせ給ふか 貴女は尊き婦人 私の聖母 苦しき苦しき愛憐の祈りをきく人 この可愛ゆきひとつの菫の花を ただ微かに貴女はほほ笑み 貴女は微かにかぐ 恐ろしい絶望の底の神祕を 人間の虚無の苦惱を 貴女は一人知る 貴女は一人知る ああ この暗い紫の色の感情を 紫の色の、げに吐息深き私の病熱の戀びとよ。貴女は。

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