壁上青狐図

火野葦平

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わたしは今日もこの壁のうへに靑い狐を畫いてゐる、 耳の尖つた憂鬱な狐を。 さうしてわたしは土筆のやうに瘦せてゆく。 ·昨日もわたしはこの同じ壁上に靑い狐を畫いた。 一昨日もわたしはこの同じ壁上に靑い狐を畫いた。 一昨昨日もそれから一昨昨昨日も。 いやもうわたしが記憶を失つてしまつたほど遠い遠いむ かしから毎日毎日。 さうしてわたしは今日もこの同じ壁上に靑い狐を畫いて ゐる。 わたしは毎日一匹の靑狐を畫きあげる。 すると翌日わたしが畫きあげた狐を見ようとして 壁のところに行つたきには、 靑い狐はいつの間にか壁上から姿を消してゐる。 そこでわたしはまたまつ白な壁の上に靑い狐を畫きはじ める。 わたしはいつたい今までに何千匹の狐を畫いて來たであ らうか。 わたしはこの不思議な永劫の努力のために土筆のやうに 痩せてゆく。 しかしながらわたしは倦まずに畫きつづける、 耳の尖つた憂鬱な靑狐を。

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