政治には生理がない
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((自分は田舍者であつたからかも知れぬ。))
或る時に、 自分は賑やかな中に立つてゐた。
月なんぞビルデングの端に、 壓へれば凹んでしまふ亞鉛板のやう
安つぼう光つて見えた。
女子や、 看板や、 食物や、 着物なんぞは、 何故かうも輝いてきて、
こんなに胸內を騷がするんだらう。
すると風が出てきた。
自分は非道い風だねと云はうとしたが側の友は、 いやちよつと頰
を嬲るだけだよとさり氣ないんで、 自分はほんの外吹く風かねと云
ひかけたか、その言葉の分明しない內に、全く立つ足元も無視した
に滅法に押しやり、 ぐらつかせ、 自分をアツと云ふ間に錐鑽の渦の
中に捲き込み、 そのまゝ矢鱈に劈く音が、チラツと赤い體と一緒に、
倒された自分をふり捨て、 闇夜の彼方深くに消え去つてしまつた。
見る間もあらず、 女子や、看板や、 食物や、 着物なんぞは辱らふ氣
色とてなく、 自分をさしのぞき、 笑ひ私語くまんまに集り圍んでし
まつた。
それだのに側の友は平氣な顔で、 火事だよつて云ふた。 自分はい
や政治だと呟き乍ら立ち上つた。
そんな刹那に月だけが眞ん丸く、 兎の餅搗のまんまの姿で眼に見
え映えた。 月は亞鉛板なんぞで决してあるもんか。
月は生理だ。
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