華燭賦
本文の表示
律師は麓の
寺をいでゝ
駕は山の上
竹の林の
夕の家の
門に入りぬ
親戚誰彼
宴をたすけ
小皿の音
厨にひゞき
燭を呼ぶ聲
背戸に起る
小桶の水に
浸すは若菜
若菜を切るに
爼板馴れず
新しき刃の
痕もなければ
菱形なせる
窓の外に
三尺の雪
戸を壓して
靜かに暮るゝ
山の夕
夕は
樂しき時
夕は
清き時
夕は
美しき時
この夕
雪あり
この夕
月あり
この夕
宴あり
火の氣弱きを
憂ひて
竈にのみ
立つな
室に入りて
花の人を見よ
花の人と
よびまゐらせて
この夕は
名はいはず
この夕は
名なし
律師席に入て
霜毫威あり
長人を煩はすに
堪へたり夕
琥珀の酒
酌むに盃あり
盃の色
紅なるを
山人驕奢に
長ずと言ふか
紅は紅の
芙蓉の花の
秋の風に
折れたる其日
市の小路の
店に獲たるを
律師詩に堪能
箱の蓋に
紅花盃と
書して去りぬ
紅花盃を
重ねて
雪夜の宴
月出でたり
月出でたるに
島臺の下暗き
島臺の下
暗き
蓬莱の
松の上に
斜におとす
光なれば
銀の錫懸
用意あらむや
山の竹より
笹を摘みて
陶瓶の口に
插せしのみ
王者の調度に
似ぬは何々
其子の帶は
うす紫の
友禪染の
唐縮緬か
艶ある髮を
結ぶ時は
風よく形に
逆らひ吹くと
怨ずる恨
今無し
若き木樵の
眉を見れば
燭を剪る時
陰をうけて
額白き人
室にあり
袴のうへに
手をうちかさね
困ずる席は
花のむしろ
筵の色を
評するには
まだ唇の
紅ぞ深き
北の家より
南の家に
來る道すがら
得たる思は
花にあらず
蜜にあらず
花よりも
蜜よりも
美しく甘き
思は胸に溢れたり
雷落ちて
藪を燒きし時
諸手に腕を
許せし人は
今相對ひて
月を挾む
盃とるを
羞る二人は
天の上
若き星の
酒の泉の
前に臨みて
香へる浪に
恐づる風情
紅花盃
琥珀の酒
白き手より
荒き手にうけて
百の矢うくるも
去るな二人
御寺の塔の
扉に彫れる
神女の戲れ
笙を吹いて
舞ふにまされる
雪夜のうたげ
律師駕に命じて
北の家に行き
月下の氷人
去りて後
二人いさゝか
容儀を解きぬ
夜を賞するに
律師の詩あり
詩は月中に
桂樹挂り
千丈枝に
銀を着く
銀光溢れて
家に入らば
卜する所
幸なりと
ログインすると、お気に入り登録や選集への追加ができます。
ログインすると、この作品に自分だけに見えるメモを残せます。
華燭賦の談話
疑問や連想、ちょっとした読み方などを気軽に話せます。
まだ投稿はありません。
華燭賦に寄せられた作品
詩から生まれた翻案・イラストや、朗読・解説などの関連リンクを持ち寄れます。
まだ投稿はありません。
批評・感想 0
作品の表現や構成を検討し、根拠を示しながら評価・講評する場所です。
まだ批評・講評はありません。
ログインすると批評・講評を書けます。