駿馬問答

伊良子清白

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使者 月毛なり連錢なり 丈三寸年五歳 天上二十八宿の連錢 須彌三十二相の月毛 青龍の前脚 白虎の後脚 忠を踏むか義を踏むか 諸蹄の薄墨色 落花の雪か飛雪の花か 生つきの眞白栲 竹を剥ぎて天を指す兩の耳のそよぎ 鈴を懸けて地に向ふ雙の目のうるほひ 擧れる筋怒れる肉 銀河を倒にして膝に及ぶ鬣 白雲を束ねて草を曳く尾 龍蹄の形驊騮の相 神馬か天馬か 言語道斷希代なり 城主の御親書 獻上違背候ふまじ 駿馬の主 曲事仰せ候 城主の執心物に相應はず 夫れ駿馬の來るは 聖代第一の嘉瑞なり 虞舜の世に鳳凰下り 孔子の時に麒麟出づるに同じ 理世安民の治略至らず 富國殖産の要術なくして 名馬の所望及び候はず 使者 御馬の具は何々 水干鞍の金覆輪 梅と櫻の螺鈿は 御庭の春の景色なり 韉の縫物は 飛鳥の孔雀七寶の縁飾 雲龍の大履脊 紗の鞍※ さて蘇芳染の手綱とは 人車記の故實に出で 鐵地の鐙は 一葉の船を形容たり ※鞅鞦は 大總小總掛け交ぜて 五色の絲の縷糸に 漣組たる連着懸 差繩行繩引繩の 緑に映ゆる唐錦 菱形轡蹄の鐵 馬裝束の數々を 盡して召されうづるにても 御錠違背候ふか 駿馬の主 中々の事に候 駿馬の威徳は金銀を忌み候 使者 さらば駿馬の威徳 御物語候へ 駿馬の主 夫れ駿馬の威徳といつぱ 世の常の口強足駿 笠懸流鏑馬犬追物 遊戲狂言の凡畜にあらず 天竺震旦古例あり 馬は觀音の部衆 雜阿含經にも四種の馬を説かれ 六波羅密の功徳にて 畜類ながらも菩薩の行 悉陀太子金色の龍蹄に 十丈の鐵門を越え 三界の獨尊と仰がれ給ふ 帝堯の白馬 穆王の八駿 明天子の徳至れり 漢の光武は一日に 千里の馬を得 寧王朝夕馬を畫て 桃花馬を逸せり 異國の譚は多かれども 類稀なる我宿の 一の駿馬の形相は 嘶く聲落日を 中天に囘らし 蹄の音星辰の 夜碎くる響あり 躍れば長髮風に鳴て 萬丈の谷を越え 馳すれば鐵脚火を發して 千里の道に疲れず 千斤の鎧百貫の鞍 堅轡強鞭 鎧かろ/″\ 鞍ゆら/\ 轡は噛み碎かれ 鞭はうちをれ 飽くまで肉の硬き上に 身輕の曲馬品々の藝 碁盤立弓杖 一文字杭渡り 教へずして自ら法を得たり 扨又絶險難所渡海登山 陸を行けば平地を歩むが如く 海に入れば扁舟に棹さすに似たり 木曾の御嶽駒ヶ嶽 越の白山立山 上宮太子天馬に騎して 梵天宮に至り給ひし富士の峯 高き峯々嶽々 阿波の鳴門穩戸の瀬戸 天龍刀根湖水の渡り 聞ゆる急流荒波も 蹄にかけてかつし/\ 肝臆ず駈早し いつかな馳り越えつべし そのほか戰場の砌は 風の音に伏勢を覺り 雲を見て雨雪をわきまふ 先陣先駈拔駈間牒 又は合戰最中の時 槍矛箭種ヶ島 面をふり體をかはして 主をかばふ忠と勇は 家子郎等に異ならず かゝる名馬は奧の牧 吾妻の牧大山木曾 甲斐の黒駒 その外諸國の牧々に 萬頭の馬は候ふとも 又出づべくも侯はず 名馬の鑑駿馬の威徳 あゝら有難の我身や候 使者 御物語奇特に候 とう/\城に立歸り 再度の御親書 申し請はゞやと存じ侯 駿馬の主 かしまじき御使者候 及びもなき御所望候へば いか程の手立を盡され いくばくの御書を遊ばされ候ふとも 御料には召されまじ 法螺鉦陣太鼓 旗さし物笠符 軍兵數多催されて 家のめぐり十重二十重 閧の聲あげてかこみ候ふとも 召料には出さじ 器量ある大將軍にあひ奉らば 其時こそ駒も榮あれ駒主も 道々引くや四季繩の 春は御空の雲雀毛 夏は垣ほの卯花鴇毛 秋は落葉の栗毛 冬は折れ伏す蘆毛積る雪毛 數多き御馬のうちにも 言上いたして召され候はん 拜謁申して駿馬を奉らん この篇『飾馬考』『驊騮全書』『武器考證』『馬術全書』『鞍鐙之辯』『春日神馬繪圖及解』『太平記』及び巣林子の諸作に憑る所多し敢て出所を明にす

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