森
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森よ。
疲れた心と肉體とを匿してくれる森よ。
五月の風と光との中に
莊重な額を搖すりながら
歌ひまた靜まる森よ。
私のこゝろは、 如何にしばしば
お前の胸の中に住む
神祕な〓らかさと夢想との方へ〓愁を持つことか!
人の世の心の觸れ合ひの中に
自らの怯怠を感じ、 他人のたましいへ通ふ道に
冷たい重い戶の閉されてゐるのを感じるとき
森よ、
お前があちらの靑い空の下に
銀色に輝やく若葉の腕をうち振りながらはるかに呼び招く聲を
如何に甘美に、 如何に慕はしく
私のたましいは聞くことか。
森よ。
私はお前の神祕な門をくゞり入つて
その廣大なたましいに觸れたときに
そこで自分のたましいを見出したのだ。
森よ。
お前は祈りと忍耐と孤獨との味を知つてゐる。
お前は沈默と歌との神祕を知つてゐる。
森よ、
お前が、 戰と受苦と準備との、
秋と冬との黑い季節の後で
年古りた、 まじめな、 冠の上に、
五月の優雅な白い花の群をちりばめて、
お前の膝から
生れ出た無數の雛鳥の歌を大空に向つて押し流すとき
お前は、 微笑する老いたる神だ。
おゝ森よ。 曉と晝と夜との中、
太陽と星と雲と嵐との下で、
お前の深い生命を辛抱强く紡ぎながら
歌ふことをお前は知つてゐる!
お前のうちに憇ひ、 お前の響の海に浸るものは、
自分自身に出逢ふのだ。
さうしてお前の靜寂の寺院に別れを〓げながら
人は自分の額が
新しい愛と勇氣とに溫められてゐるのを感じるのだ。
(一九二四、 五、 二四)
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