悪の窓

北原白秋

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連作7篇の小詩篇からなります。各篇は独立した作品ページを持ちます。

詩集『邪宗門』所収。原文は「悪の窓 断篇七種」と題し、一〜七の7篇を並べる。末尾に「悪の窻 畢――四十一年二月」とある。

1 狂念

あはれ、あはれ、 青白き日の光西よりのぼり、 薄暮の灯のにほひ昼もまた点りかなしむ。 わが街よ、わが窓よ、なにしかも焼酎叫び、 鶴嘴のひとつらね日に光り悶えひらめく。 汽車ぞ来る、汽車ぞ来る、真黒げに夢とどろかし、 窓もなき灰色の貨物輌豹ぞ積みたる。 あはれ、はや、焼酎は醋とかはり、人は轢かれて、 盲ひつつ血に叫ぶ豹の声遠に泡立つ。

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2 疲れ

あはれ、いま暴びゆく接吻よ、肉の曲。…… かくてはや青白く疲れたる獣の面 今日もまた我見据ゑ、果敢なげに、いと果敢なげに、 色濁る窓硝子外面より呪ひためらふ。 いづこにかうち狂ふヸオロンよ、わが唇よ、 身をも燬くべき砒素の壁夕日さしそふ。

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3 薄暮の負傷

血潮したたる。 薄暮の負傷なやまし、かげ暗き溝のにほひに、 はた、胸に、床の鉛に…… さあれ、夢には列なめて駱駝ぞ過ぐる。 埃及のカイロの街の古煉瓦 壁のひまには砂漠なるオアシスうかぶ。 その空にしたたる紅きわが星よ。…… 血潮したたる。

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4 象のにほひ

日をひと日。 日をひと日。 日をひと日、光なし、色も盲ひて ふくだめる、はた、病めるなやましきもの 窻ふたぎ窻ふたぎ気倦るげに唸りもぞする。 あはれ、わが幽鬱の象 亜弗利加の鈍きにほひに。 日をひと日。 日をひと日。

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5 悪のそびら

おどろなす髪の亜麻色 背向け、今日もうごかず、 さあれ、また、絶えずほつほつ 息しぼり『死』にぞ吹くめる、 血のごとき石鹸の珠を。

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6 薄暮の印象

うまし接吻……歓語…… さあれ、空には眼に見えぬ血潮したたり、 なにものか負傷ひくるしむ叫ごゑ、 など痛む、あな薄暮の曲の色、――光の沈黙。 うまし接吻……歓語……

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7 うめき

暮れゆく日、血に濁る床の上にひとりやすらふ。 街しづみ、窻しづみ、わが心もの音もなし。 載せきたる板硝子過ぐるとき車燬きつつ 落つる日の照りかへし、そが面噎びあかれば 室内の汚穢、はた、古壁に朽ちし鉞 一斉に屠らるる牛の夢くわとばかり呻き悶ゆる。 街の子は戯れに空虚なる乳の鑵たたき、 よぼよぼの飴売は、あなしばし、ちやるめらを吹く。 くわとばかり、くわとばかり、 黄に光る向ひの煉瓦 くわとばかり、あなしばし。――

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