父と母

北原白秋

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樟の若葉は朱に青に、 日かげは椎の黝黒葉や。  ああ、その下を父と母。 五月なかばの午過ぎは 湿りにあかる日の黄金。  ああ、閑けさや、塔の空。 谷中は墓地の石だたみ、 現は散らふ蟆子の羽や。  ああ、うちけぶる藍の香。 父は宣らしぬ、よき母よ、 かかる安けき地をこそと。  ああ、墓石や、そのふたつ。 母も笑ましぬ、よき父よ、 まこと扇骨木のすずしさと。  ああ、よき鳩や、連の鳩。 父の垂髯寂びがちに、 母はいや増す鬢の霜。  ああ、ねもごろや、老の影。 桐の紫、また更に 曇ににほふ暮あひや。  ああ、暮あひや、父と母。

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