願人坊

北原白秋

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雪のふる夜の倉見れば 願人坊を思ひ出す。 願人坊は赤頭巾、 目も鼻もなく、眞白な のつぺらぽんの赤頭巾。 「ちよぼくれちよんがら、そもそもわつちが のつぺらぽんのすつぺらぽん、すつぺらぽんののつぺらぽんの、 坊主になつたる所謂因縁きいてもくんねへ、 しかも十四のその春はじめて」………… 踊り出したる惡玉が 願人坊の赤頭巾。 かの雪の夜の酒宴に、 我が顫へしは恐ろしきあるものの面、「色のいの字の」 白き道化がひと踊………… 乳母の背なかに目を伏せて 恐れながらにさし覗き、 淫らがましき身振をば幽かにこころ疑ひぬ、 なんとなけれどおもしろく。 「お松さんにお竹さん、椎葺さんに干瓢さんと…………手練手管」が何ごとか知らぬその日の赤頭巾、 惡玉踊の變化もの。 雪のふる夜の倉見れば 願人坊を思ひ出す。 雪のふる夜に、戲けしは 酒屋男の尻かろの踊り上手のそれならで、 最も醜く美しく饑ゑてひそめる仇敵、 おのが身の淫ごころと知るや知らずや。

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