百姓唄

北原白秋

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やれやあ引、さの、せえい、せえい、せえええい、 三浦三崎は女の夜業、男後生楽寝てまちる、 ようい、ようい、よやさのせえい。 ええ、そりや、なあ、 秋が来たぞよ、三崎諸磯の段々畑から百舌が出たで、 えええ、や、ほろほにや、や、ほろほ、 くゐくゐいろうにや、くゐろうにや。 やあれ、日はよし、地はよし、海や凪ぐし、 今年や豊年歳、穂に穂が咲いた、 やあれ、テケテケ、チヤンチキ、チヤンチキナ、 ありやりや、こりやりや、これわいさのせえい。 五郎作よ。太郎兵衛よ、杢十よ、ちよいと来なせ、 丘や畑は万作じや、おや、俺ちの陸穂もやつと熟れた。 やれ、南瓜も飛び出せ、牛蒡も踊り出せ、 枝豆、隠元、ささぎ豆、 なた豆、落花生に胡麻の種、 莢がはぢけた、赤ちやけた、 化猫、雉猫、かま鼬、粟が尻尾を黄に垂れた。 稗は真黒、真黒、くろんぼ、玉蜀黍や赤髯、赤髯毛唐人が股くら毛。 蜻蛉がからんだ、螽蟖がセ、栗鼠が駈け出す、鳶がセ、 お薯もころげ出せ、馬鈴薯、里芋、つくね芋。 子を生め、子を生め、山の芋。 こちのお嚊もどんと殖せ、 俺ちも壮健で、うんと肥せ、 種蒔け、種蒔け、蒔かずにやゐられぬ、蒔かねば憂さやの、子種はどつさり、畑は上々で、畝高で、 水もよくきく、肥料もよくきく、 種蒔け、種蒔け、づんと殖せ、 そこら一面鋤いて返せ。 子をうめ、子をうめ、土の芋。 やれ、その子は誰が子だ、俺が子だ、 汝ちの畑にできた子だ、 それでも誰が子か知んねえだ、 麦だか、粟だか、芋だか、稗だか、子種はどつさり、畑はひとつよ、 誰が子でもよかんべ、出来た子は俺が子。 やあれ、なあ、三崎やよいとこ、女の夜業、 ええ、凪にやええ、凪にや鱶釣り、夜中は寝まる、 たまに風吹きや畑うち、 うんとこしよ、どつこいしよ、 惚れたその時や命もいらぬ、 いやで別れりや離れよとままよ、 翌の晩にはまたできる、 おおさ、やれ、やれ、三崎よいとこ、男の後生楽、 子を生め、子を生め、土の芋。 やあれ、曳け、笛吹け、鉦うてよ、 太皷どんどと打つて囃せ、 子供は真つ先、地主どんの音頭で、 花笠そろへた、団扇をそろへた、よいと曳けよ、 お婆も来、お嚊も後押せ、 畑の真中、お囃子や、チヤンチキ、チヤンチキ、 浮かれて、はしやいで食べ酔うて、 而も生真面目で泣いて通ろ。 やあれ、曳け、山車よ曳け、海が見ゆる、 沖はええ、沖はてるてる、風車は廻る、磯の神明様の片時雨、 ようい、ようい、よういとなあ、 ええ、そりや、退した、 お巡査さんが逃げ出す、 神主さんも笑ひ出す、 支える、支える、松の木に、木槿も邪魔だよ、 切ろやれ、捨よやれ、やあ、 蜻蛉がからんだ、螽蟖がセ、栗鼠が駈けだす、鳶がセ、 お薯もころげ出せ、馬鈴薯、里芋、つくね芋、 子を生め、子を生め、山の芋、 南瓜も飛び出せ、牛蒡も踊り出せ、この冥加えな、 あれわいせの、これわいせの、この冥加。 さあさ、浮いた。浮いた。 逢ひたかんべ、見たかんべ、添つたらよかんべ、 家に知れたらやかましかんべ、 世間がわるかんべ。 おさ、やれ、やれ。 何だつべこべ、惚れたがどうしただ、 家で知つたちゆて添はずにやをかねえだ、 世間が何だんべ。 おさ、やれ、やれ。 草の葉つぱは風吹きや戦ぐ、 地からしんしん揺り動く。 一切合切投げいだせ、 私ももとより泣き上戸。 草の葉つぱは雨降りや生きる。 地までさんざと濡れしとる。 一切合切づぶ濡れだ、 私ももとより一途もの。 草の葉つぱは日が照りや躍る、 地から底から沁み光る。 一切合切照りかへせ、 私ももとより命がけ。 その日ぐらしの山樵が 斧鉞かついでたゞ涙。 通草も真赤にはぢきれた、 鳥もケンケン飛んでゆく、 うんとこどつこい、よいとこな。 急いで下りなきや日が暮れる。 うんとこどつこい、よいとこな。 朝は元気な船頭衆も 夕日が転がりや空矢声。 浮気な沙魚めにや逃げられる、 漕いでも漕いでも波の上、 えんやらほいほい、えんやらほい、 急いで上らにや子が喚く、 えんやらほいほい、えんやらほい。 郵便飛脚は命がけ、 いつさん走りに、豆畑、 三浦三崎にや燈がついた。 小便する間も気が揉める、 えつさつさ、えつさつさ、 急いで駆けなきや首が切れる、 えつさつさ、えつさつさ。 むすめ、むすめ、城ヶ島の娘、 おまへは裸で海のそこ、 朝も早うから海のそこ、 素足ちらちら、真逆様に 波を潜れば、青波ばかり。 むすめ、むすめ、城ヶ島の娘、 鮑取ろとて海のそこ、 潜水眼鏡で波のそこ、 あちらこちらといのちをちぢめ、 泳ぎ廻れど青波ばかり。 むすめ、むすめ、城ヶ島の娘、 海はしんしん、おへそはひえる。 息がつまれど波のそこ、 岩にべつたりしがみつく、 しがみついても青波ばかり。 むすめ、むすめ、城ヶ島の娘、 さぞや痛かろ、虎魚の針に、 足を刺されて、揺りあげられて、 浮いて上れど青波ばかり、 前もうしろも青波ばかり。 むすめ、むすめ、城ヶ島の娘、 おまへは裸で海のそこ、 波にや揉まれる、生活はたたず、 鮑取ろとて潜つて見たが、 鮑取らいで子ができた。 雨はふるふる、城ヶ島の磯に、 利休鼠の雨がふる。 雨は真珠か、夜明の霧か、 それともわたしの忍び泣き。 舟はゆくゆく通り矢のはなを、 濡れて帆をあげたぬしの舟。 ええ、舟は櫓でやる、櫓は唄でやる。 唄は船頭さんの心意気。 雨はふるふる、日はうす曇る。 舟はゆくゆく、帆がかすむ。 〔『白秋詩集 第二巻』「畑の祭 補遺」より〕 小鳥は飛ぶ、彼はその飛ぶことすらも 曾て悟らざるがごとし、 小鳥は飛ぶ、金色の光に飛ぶ。 小鳥はただ飛ぶ、形なき一線に飛ぶ。 さながら翼つけし独楽の とめてとまらぬその迅さ。 かぎりなき大海の上、 ただひとつころがれる日輪の 朱紅の円さ。 小鳥は飛ぶ、一線にその面を横ぎる。 かなしくも突き抜けむとす。 小鳥はこの時まさしく小鳥の姿となる。

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