北原白秋

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柔かなる月の出に 生じろき百合の根は匂ひいで、 鴉の鳴かで歩みゆく畑、 その畑に霜はふる、銀の薄き疼痛………… 過ぎし日は苦き芽を蒔きちらし、 沈默はうしろより啄みゆく、 虎列拉病める農人の厨に 黄なる灯の聲もなくちらつけるほど。 霜はふる、土龍の死にし小徑に、 かつ黒き鳥類の足あとに、故郷のにほひに、 霜はふる、しみじみと鍼をもてかいさぐりゆく 盲鍼醫の觸覺のごと、 思ひ出の月夜なり、銀の痛き鍍金に、 薄青き光線の暈かけて慄く夜なり。 放埓のわが悔に、初戀の清き傷手に、 秘密おほき少年のフアンタジヤに。 霜はふる。 ややにふる、 來るべき冬の日の幻滅…………

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