トラピストの牛

北原白秋

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月夜であります。 月夜であります。 月夜である。 甘藍がはらりと一皮はねた、 重い羽ばたき、梟だ。 七面鳥は朱に青に、 膨れかへつて焦つてる。 とても明るい山独活だ、 雌蕋の花粉は唸つてる。 バタの香も新鮮だ。 燕麦、漆姑草、青蓬、 裸の子供のにほひもする。 さら、 さら、 さら、さら、さら、さら、唐黍だ。 紅い垂毛は目がさめて、 誰か来ぬかと待つてゐる。 暑い、暑い、暑い、暑い、 へえほう。と 虫も啼いてる、草むらで。 かあん。    と、空鳴り、空の鐘。 月夜であります。 月夜であります。 月夜である。 「神父さん。」トントン。 「神父さん。」トントン。 「神父さん。」トントン。 「神父さん。」トントン。 「神父さん。」トントン。 「神父さん。」トントン。 「神父さん。」トントン。 「副院長さん。」トントントン。 「院長さん。」トン。 「しつ。」 「しつ。」 「しつ。」 「しつ。」 「しつ。」 「しつ。」 「しつ。」 さうした声がするやうで、 じつはしませぬ。牛舎です。 暗さは暗し、静かです。 腐れたにほひ、乳のにほひ、 燦燦ひそむ黄金虫、 ひつそりとうつ尻尾の尖、 草のちり屑、 尿のにほひ、 また食べかけの向日葵の 花も何処かに燃えてる筈。 眼。 眼。 眼。 眼。 眼。 眼。 眼。 月夜であります。 月夜であります。 月夜である。 「お乳が張つたあ。マリヤさま。」 トン。 「しつしつ。」 「しつ。」 後はひつそり、 牛舎です。

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