月と美童

北原白秋

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月映の、露の野道の ほんの濃い、向うの靄で。    ぼうわう、ぼうわう、 あ、なにかしろく吠えてる。 水芋のてらてらの葉の その前を、音はしてたが、    ぼうわう、ぼうわう。 お、誰か、ひきかへしてる。 美しい童よ、角髪の子よ、 怖がるでない、怖がるでない。    ぼうわう、ぼうわう、 あれはただ吠えるだけだよ。 月がまた雲を呼ぶのだ、 ぼうとした紫なのだ。    ぼうわう、ぼうわう、 小さい蛾までが輝くのだ。 な、みんなが思ひ出すのだ、かうした晩は、 美しい童よ、童のむかしを。    ぼうわう、ぼうわう、 前の世の聖母の、円かな肩を。 匂やかであつた、世界は。ふじぎぬのやうな 光と空気とに織られてゐた。    ぼうわう、ぼうわう、 ああした夜靄にも吠えてゐた何かだつたよ。

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