湯どころの秋
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ねもごろの日のあたりかも。そことなき湯のけぶりかも。日のあたる原のかたへに欅立ち、欅の傍に斑牛ひとり居りけり。安らかに繋がれてけり。山峡の湯どころの秋。出て見れば、下の小橋を杖つきて渡る子もあり。垂稲の黄ばむ田づらはをりふしに雀むれ立ち、道ぞひの茅屋の庭に白菊の盛り見せたる、胡麻と栗並べ干したる暇ある心に見ればなかなかに今日は安けし。向つべに日のかげる山、なほ明く温かき山、その空の白き綿雲、ちろちろと渡る禽さへなかなかにあはれとも見れ。妻と来て、二人来て、七日まり住み馴れてのち、やうやうに紅葉色づく遠近のこの眺めなる。あなあはれ、ねもごろの日のあたりかも。そことなき湯のけぶりかも。日のあたる原のかたへに欅立ち、欅のかげに斑牛ひとり居りけり。繋がれてただねんねんと草食みにけり。
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