みんな悲しげにそう思う

倉橋潤一郎

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胡瓜つくってもいい トマトつくってもいい 南瓜も西瓜も茄子も 高い肥料代や小作米にくわれる 二番稲をつくるより 野菜をつくって市へだすのが なんぼいいかも知れない 山の向うの村から はこんで来るリヤカーの群をみると みんな悲しげにそう思う 今朝も おっかあ達は ここ 町の入口で がやがやとかけひきに余念がない 家の側を流れる溝で 夜になって 月にぬれて 野菜や果物を洗ってみたい 自分で手入れて 自分でみがいて 売りにいってみたい みんなそう思うのだが 今日も 雨にしがみつくような銃声がきこえて来る 「敵は左方 四百米」 稲田の畔の こえぐろの影で 赤と白 半々の旗がひらめいている 俺達ゃ はらはらする 「追撃」の声もろとも 泥田の畔をふみ砕いてつき進む群 「畑だったら 畑だったら、わやくそだ!」 みんな悲しげにそう思う (『車輪』一九三六年九月号に発表 一九七九年二月野田晌子発行『倉橋潤一郎作品集』を底本)

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