農夫
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主なる爾の神を愛すべし。
日は今、 山に沈みたり、
西の御空にいと紅く
色づく雲の綾錦。
鳥も塒に歸るらし
群を作りて五つ六つ。
遠きあなたの村に、 はや
夕炊の煙立ちのぼる。
爾. 心を盡くし、 精神を盡くし、 力を盡くし、 意を盡くして、
(申命記第六章)
近きこなたの田の面に
立ち働ける年若き
夫婦の農夫、 その顏は
赤く黑めど、 いと强き
其筋骨に、 勞働の
甲斐ゝゝしさを示したり。
靜けく暮 るるダ空の
波を忽ちゆるがして、
響き渡るは、 正に是れ
七時を告ぐる鐘の聲。
『今は時ぞ』と言ひ合ひつ
二人は共に笠を脫ぎ
鍬と鎌とを地に置きて、
相向ひつゝ首垂れて
無言の祈禱捧げけり。
『天地治し召し給ふ
父なる愛の我が神よ、
我等二人は今こゝに
爾の聖なる前に立つ。
我等拙き者なる に
我等賤しき者なるに、
今日も朝より夕べまで
大能の御手垂れ給ひ、
日の業を障りな く -
終 へさせ給ふ有難さ。
我等の頭に、 今日も亦
暖かき日の光あり。
我等の肌に、 今日も亦
凉しき風の香あり。
我等の 靈に、 今日も亦
活動の膏油豊かにて、
我等の腕は、 今日も亦
奮勵の力 張緊り、
我等の額は、 今日も亦
歡喜の汗にぞ濡ヘ る。
我等が耕し、 種子播きて
水灌ぎつつ、 転りつ
植ゑたる早苗、 今はしも
日光と雨露の惠みにて
日每日每に生長てり、
やがて花咲き實らなむ
收穫すべき時は來む。
思へば嬉し、 あゝ嬉し、
淚も恩惠に答へ難しや。
朝より夕に至るまで
鍬と鎌とを手に執りて
田の面に立ちて働けば、
畔の小花に靜思あり、
空の小鳥に讃歌あり。
今日も疲れを忘れけり、
今日も倦むこと無かりけり。
我等の生の安きかな、
我等の業の樂しかも。
我等の肉は、 いと低き
此地の泥に埋るれど、
我等の靈は、 いと高き
爾を天に仰ぐなり。
我等のたどる道程を
直く守らせ給へかし、
我等の爲すべき行動を
潔く保たせ給へかし、
永久、南を愛すべく。
日每日每に注ぐなる
爾の深き恩惠は、
我等二人の小さなる
身にも靈にも溢るなり、
思へば感謝、 あゝ感謝。
然あるからに、 願くは
いよいよ深き敬虔と
ますます低き謙遜を
我等の心に賜へかし、
永遠爾を崇むべく。
靜けく暮るる此夕
天地の平和なる如く
我等の心も平和なり。
父なる神よ、 願くは
我等職分を爲し終へて
此世を去らん臨終にも
斯かる平和の恩寵をば、
我等二人の靈魂より
取り去り給ふこと勿れ。
今日の仕業も終へぬれば、
我等二人は今將さに
家路に向ひ去らんとす。
去りての後は田も稻も
爾の大能の御手をもて
安く守らせ給へかし、
復び見舞はむ明朝まで。
あゝ此感謝、 此祈禱、
救主なるキリストの
聖名に由りてぞ奉る、
聽き上げ給へ、アーメン『。
心と心と相結び
靈と靈とが相和して
捧げまつれる此祈禱、
永遠よりぞ永遠に
エホバの胸に響くらむ、
あはれ無言の此祝禱。
富者の財も、 學者の智も、
英雄の略も、 帝王の威も、
抑も國家の衝突も、
將た又人種の爭鬪も、
あゝ此無言の祈禱の前に
果して何の意味かある。
夕照旣に薄らぎて
蒼然たりや暮の 色、
名殘の雲の彩消えて
水色なせる御空には
はや明星の影見えて
あゝ平和なる田の面に
靜けき夜の使者來ぬ。
『いざや』と起ちて、 相共に
鍬を荷ひつ、 鎌取りつ
復び笠を被りて
二人は家に向ひけり。
やがて姿は立ちこむる
暮靄の裡に隱れ行く。
今交も夢はいや聖く
神の御國をたどるらむ。
我は種ゑ、 アポロは水灌げリ。 されど育てたるは神なリ。 されば種うる者
も, 水灌く者も數ふるに足らず、 只尊きは育て給ふ神なり。
(哥林多前書第三章)
我に牡丹の姿な く、
我に櫻の色はなし。
されども神は我が花に
種の香をぞ與へける、 一
其香は愛の香なりけり。
垣根の端や、 庭の前、
山路に、 野邊に咲き出でて、
傍 近く來る人の
袖に我が香を移してむ、
袂に我が香を留めてむ。
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