松の影

槇村浩

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何百年のその間 村の境に立ってゐる 一本松の松の影 今はだん/\枯れて来て 「かうまではかなく成ったか」と 空をあふいで一人言 「この私が生れたは  丁度今からかぞへたら  六百年の其の昔  あちらの村の庄屋さん  こゝへ私を植えたので  何百年のその間  こゝにかうして居たのだが  始は小さい松の影  だん/\大きく成って来て  二つの村の人々が  一日たんぼで働いた  つかれをいやす松の影  今は仲好し友達が  二人三人つれ立って  向の山や近の浜  遠足に行く行き帰り  必ずこゝで休んで  こう言ったなら私も  少しはお役に立ちませう  しかし今では意地悪な  きつつき鳥につゝつかれ  松はだん/\枯れて来て  もう早や死んで終ひそう  これまでたび/\こゝへ来て  休んで行った村の人  少しも私に取り合はぬ  これから私はどうなるか」 言って終って吐いきつく ほんとにあはれな松の影 大正十一年七月十六日綴

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