無声慟哭

宮沢賢治

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こんなにみんなにみまもられながら おまへはまだここでくるしまなければならないか ああ巨きな信のちからからことさらにはなれ また純粋やちひさな徳性のかずをうしなひ わたくしが青ぐらい修羅をあるいてゐるとき おまへはじぶんにさだめられたみちを ひとりさびしく往かうとするか 信仰を一つにするたつたひとりのみちづれのわたくしが あかるくつめたい精進のみちからかなしくつかれてゐて 毒草や蛍光菌のくらい野原をただよふとき おまへはひとりどこへ行かうとするのだ   (*おら おかないふうしてらべ) 何といふあきらめたやうな悲痛なわらひやうをしながら またわたくしのどんなちひさな表情も けつして見遁さないやうにしながら おまへはけなげに母に訊くのだ   (うんにや ずゐぶん立派だぢやい    けふはほんとに立派だぢやい) ほんたうにさうだ 髪だつていつそうくろいし まるでこどもの苹果の頬だ どうかきれいな頬をして あたらしく天にうまれてくれ   ⦅*それでもからだくさえがべ?⦆   ⦅うんにや いつかう⦆ ほんたうにそんなことはない かへつてここはなつののはらの ちひさな白い花の匂でいつぱいだから ただわたくしはそれをいま言へないのだ    (わたくしは修羅をあるいてゐるのだから) わたくしのかなしさうな眼をしてゐるのは わたくしのふたつのこころをみつめてゐるためだ ああそんなに かなしく眼をそらしてはいけない ⦅一九二二、一一、二七⦆  註 *あめゆきとつてきてください *あたしはあたしでひとりいきます *またひとにうまれてくるときは  こんなにじぶんのことばかりで  くるしまないやうにうまれてきます *ああいい さつぱりした  まるではやしのなかにきたやうだ *あたしこはいふうをしてるでせう *それでもわるいにほひでせう

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