鎔岩流

宮沢賢治

タグを編集・提案

作品の主題・モチーフなど、対象に固有の情報を登録してください。年代・形式・表記・文学運動などの共通分類は登録できません。会員タグの追加と、正式タグの削除は、5人の支持で自動反映されます。

ログインするとタグの追加・削除を提案できます。

喪神のしろいかがみが 薬師火口のいただきにかかり 日かげになつた火山礫堆の中腹から 畏るべくかなしむべき砕塊熔岩の黒 わたくしはさつきの柏や松の野原をよぎるときから なにかあかるい曠原風の情調を ばらばらにするやうなひどいけしきが 展かれるとはおもつてゐた けれどもここは空気も深い淵になつてゐて ごく強力な鬼神たちの棲みかだ 一ぴきの鳥さへも見えない わたくしがあぶなくその一一の岩塊をふみ すこしの小高いところにのぼり さらにつくづくとこの焼石のひろがりをみわたせば 雪を越えてきたつめたい風はみねから吹き 雲はあらはれてつぎからつぎと消え いちいちの火山塊の黒いかげ 貞享四年のちひさな噴火から およそ二百三十五年のあひだに 空気のなかの酸素や炭酸瓦斯 これら清洌な試薬によつて どれくらゐの風化が行はれ どんな植物が生えたかを 見ようとして私の来たのに対し それは恐ろしい二種の苔で答へた その白つぽい厚いすぎごけの 表面がかさかさに乾いてゐるので わたくしはまた麺麭ともかんがへ ちやうどひるの食事をもたないとこから ひじやうな饗応ともかんずるのだが (なぜならたべものといふものは  それをみてよろこぶもので  それからあとはたべるものだから) ここらでそんなかんがへは あんまり僭越かもしれない とにかくわたくしは荷物をおろし 灰いろの苔に靴やからだを埋め 一つの赤い苹果をたべる うるうるしながら苹果に噛みつけば 雪を越えてきたつめたい風はみねから吹き 野はらの白樺の葉は紅や金やせはしくゆすれ 北上山地はほのかな幾層の青い縞をつくる   (あれがぼくのしやつだ    青いリンネルの農民シヤツだ) (一九二三、一〇、二八)

ログインすると、この作品に自分だけに見えるメモを残せます。

批評・感想 0

作品の表現や構成を検討し、根拠を示しながら評価・講評する場所です。

まだ批評・講評はありません。

鎔岩流の談話

疑問や連想、ちょっとした読み方などを気軽に話せます。

まだ投稿はありません。

話題を投稿する

鎔岩流に寄せられた作品

詩から生まれた翻案・イラストや、朗読・解説などの関連リンクを持ち寄れます。

まだ投稿はありません。

この詩に作品を寄せる