海邊暮唱

三好達治

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彼方に大いなる船見ゆ 敵國の船見ゆ いえいえあれは雲です 彼方に青き島見ゆ 島二つ見ゆ いえいえあれは雲です ひと日暮れんとして 悲しみ疲れたるわれらが心の上に いま大いなる天蓋 夕燒の空は赤く燃えてかかりたり 深き憂愁と激しき勞役との一日の終りに なべてはしばし美しき夢をもて飾られぬ 浪のこゑしづかに語り 艪の音きしみ 鴉らはただ默々とひと方に飛ぶ 秋は既に深けれど山々はなほ緑さやかに 寂然としてはてしなき想ひに耽れり 萬象はかく新らしき明日をむかへんとして なつかしき空想とゆかしき沈默とはあまねく世界を領したり ああ戰ひやみぬ いくさ人おほく歸らず 戰ひやぶれし國のはて 古鐘またほろび かかる時鳴りもいづべき梵音の すゑながき清淨音をききもあへず 雲ははやおとろへ散じ縹の色もあせんとす 彼方に青き島見ゆ 島二つ見ゆ いえいえあれは雲です 彼方に大いなる船見ゆ 敵國の船見ゆ いえいえあれは雲です

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