時雨の宿

三好達治

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かすかなる かすかなる聲はすぐ はらはらと今ふりいでし雨の音 ひそかに軒を走る夜 時雨ふるかかる夜頃を音もひくく 渡るは何の鳥ならん かすかなる かすかなる聲はすぐ 聲はかたみに呼びかはし ちちとのみただひくくかすかに かたみにつまをたのむらんこたへかはして 稻妻のかき消すごとく 闇の夜空をはや遠くかすめて去りぬ 深沈として風は落ち 燈火くらく人はみな眠れる巷 甍も寒き屋の棟を 時雨の雨にぬれぬれて かすかなる かすかなる聲はこなたにかへりくる げにこぞの日のかかる夜も 時雨の宿のつれづれに 冬ちかき海の遠音にまじらひて かすかなる かすかなる かかるすずしき音をききし 思出のいまはたあはれ あはれかく古りゆくをただふりゆかしめて あともなき ひとむれの聲のゆくへや

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