蟋蟀(『泣菫詩抄』収録・同題第1篇)

薄田泣菫

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婢女眠りて廚さむく、 小鼠古巣にこもる夜半を、 冷え行く竈に友もあらで 節おのづからに蟋蟀鳴く。 かすかに顫へる己が歌の ひびきを興がるいろも見えて、 眉の毛ふれるよ、鳴きつ、飛びつ、 無心のたはむれ忙がしげに。 更け行く半夜の影を惜み、 見えがたきものの見まほしさに、 燭とりて窺ふ吾がけはひに、 おどろき隱るるあわただしさ。 燭をこそ消さまし、心ゆるに 唱へよ、竈に靜歌をば。

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