膃肭臍賣
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「これはもと擇捉島の荒海に」と
御國なまりの言葉濁「追ひとりまきし
膃肭臍、海なるぬし。」と瘠がみし
毛むくぢやらなる嬌笑つとこそよよめ。
七月の日は照り澱む路辻の
砂ぼこりする露店に「なう皆の衆、
北海の膃肭は、實に」と汗ばみし
たゆげの喘ぎ「生藥、一のやしなひ。」
路の邊の柳の葉なみ萎びれて、
歎かひしずむ蔭日向、――ああ海の主、
膩肉の膂肉は厭に灰じろみ、
黒血のにじみ垢づきて、かつ膿沸きぬ。
「これなるは流産の止め。」と喉の小舌
ひきつるけはひ、咳きて「あれなるは、また
おとろふる腎臟の藥、乾肉の
たけり。」と言ひて、北海のまぼろし夢む。
剔りくじるまだ見ぬ海の靈獸、
小さ刀の刄にぬるる妖のしたたり。
臠の生干の色のなまぐさに、
ふとしも聞きぬ、鹹ゆき潮ざゐの音を。
つぶやきて人はも去りぬ。つむじ風
つとこそ躍れ。ほほけ立つ埃まみれに
膩肉の熱ぼる腫み、――しかすがに
心はまどふ、仄ぐらき不安の怯え。
日ぞ正午。油照りする日のしづく
食滯るる底に、肉の蒸れ※えゆく匂ひ、――
ひだるさに何とは知らず脂くさき
吹呿のまぎれ、辻賣はつぶやくけはひ。
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