小鼠に與ふ
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廚女皿を灌ぐとて、
水吹く管を開けしまま。
戸に凭る頃を窺ひて、
出でしや、鼠穴の巣を。
窓洩る光ほの暗く
粉曳臼の上に落ち、
人の形を映すとも、
恐るる勿れわが友よ。
倉にこぼれし米ありて
三粒の糧に飽きたりや、
にこ毛ふくらむ汝が胸は、
幸や孕むと疑はる。
物蔭づたひ往きめぐる
ちいさ姿を眺めては、
誰か夜に盛る盃の
底の藥を悔まざる。
田に米蒔きて稗得しや、
米獲て倉に滿たざるや、
人地の幸を思ひ見ば、
鼠に糧を惜まざれ。
壁の壞れにくぐり入り、
脚そばだてて何を見る、
胸に小さき智慧ありて、
世の成りゆきを觀ずるか。
ああ詐欺に身は瘠せて
爭ひ多き市の上、
影にも堪へぬ鼠子の
清き目を引く價値ありや。
聽け君、穴の暗きより
ききと物噛む響する。
今人の世の恥なきに、
鼠なくやとわれ惑ふ。
自然に依りて足る可きを、
人營みて何するや。
噛むに故あり、願くは
神この穴に平和を。
ああ鼠子よ、此處に來て
暫しはわれと共にせよ、
誰が手か、倉の白壁の
鳥羽繪に似たる笑をば。
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