噴霧的な夢

高村光太郎

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あのしやれた登山電車で智恵子と二人、 ヴエズヴイオの噴火口をのぞきにいつた。 夢といふものは香料のやうに微粒的で 智恵子は二十代の噴霧で濃厚に私を包んだ。 ほそい竹筒のやうな望遠鏡の先からは ガスの火が噴射機のやうに吹き出てゐた。 その望遠鏡で見ると富士山がみえた。 お鉢の底に何か面白いことがあるやうで お鉢のまはりのスタンドに人が一ぱいゐた。 智恵子は富士山麓の秋の七草の花束を ヴエズヴイオの噴火口にふかく投げた。 智恵子はほのぼのと美しく清浄で しかもかぎりなき惑溺にみちてゐた。 あの山の水のやうに透明な女体を燃やして 私にもたれながら崩れる砂をふんで歩いた。 そこら一面がポムペイヤンの香りにむせた。 昨日までの私の全存在の異和感が消えて 午前五時の秋爽やかな山の小屋で目がさめた。 昭和二三・九

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