裸形

高村光太郎

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智恵子の裸形をわたくしは恋ふ。 つつましくて満ちてゐて 星宿のやうに森厳で 山脈のやうに波うつて いつでもうすいミストがかかり、 その造型の瑪瑙質に 奥の知れないつやがあつた。 智恵子の裸形の背中の小さな黒子まで わたくしは意味ふかくおぼえてゐて、 今も記憶の歳月にみがかれた その全存在が明滅する。 わたくしの手でもう一度、 あの造型を生むことは 自然の定めた約束であり、 そのためにわたくしに肉類が与へられ、 そのためにわたくしに畑の野菜が与へられ、 米と小麦と牛酪とがゆるされる。 智恵子の裸形をこの世にのこして わたくしはやがて天然の素中に帰らう。 昭和二四・一〇

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