曙の讃歌
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深海の底の如き靜寂さが
靄と共にあたり一面とぢこめてはゐるが、
既に彼の山の巓は最初の光に
くつきりと黄金色に染め出されてをる、
裂明の、 尊く、 將〓らかなる美の面貌を ひざまづ 跪 きつつ祝ぎ
奉る。
七月下旬、 盛夏の朝の狭霧ば
ここ高原の懷の遙かな谷間より立ちのぼり、
徐々と消にてゆく、 そろ〓〓 その指さす方は
限りなき紺靑の半ば暗く、 半ば明るい曉の天の星。
目覺めた鶯は綠深き森の奧より、
晴れゆく空の色調を柔に唄ひ流し、
朗かなる聲に〓して
谷川のせせらぎの之れに喜び和すれば、
生命は夢より現へ、 靜かに盛り上り來る。
汎ねく空に傳はるは妙なる香氣、
彼の高山は龍涎麝香沒藥の限りをつくして
不斷に香を焚き燻らせ、
見ねざる煙の精氣の如く
西に靡き、 東に流れ、 地の上にかぎらふ光。
次第にひろがる空の碧、
草の上の露は燦めき散り、
その間を踏みゆく眞つ白の足、 曙よ、 爾の愛撫と慈悲
の御足、
歡喜の黄金と赤とを一抔に播く。
仄かに靑く靄から拔け出た向ひの山の
廣やかな中腹に、
放牧の牛の群がゆるく斜面を下りながら
一線の水道に口をつけてゐる姿を遙に見る、
太古より今に至るまで、
如何に悠久なる時を彼の牛は呑みつつあることだろう。
凡てのものは輝き初め、
靜かに力溢れて、
恰も廻り澄ました渦卷のやうに空は深く沈み、
地は花の如く微笑み開いて、
陶醉した太陽がゆつたりと雲の上に乘りかかる、
沈默の禮拜に世界は此のひととき釘づけとなる。
風よ、 朝風よ、 まどかなる心を以で
谷底より森を吹き、 草原を吹く、
世界は明かなる光のうちに進み入り、
利郡に變る木の葉のざわめき、 枝のうなりは、
浪の飽き立つ荒海の濕騷の如く
天地をこめて限りなき音樂を轟かせ、
嚴かに美しい戦の生命を、 ひらけゆく爾の心を、 喜び崇
め 要するに
(一九二三年十二月)
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