猫の迷ひ兒
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黑と灰色とをまぜた上品な
つやのよいコートをきた
可愛い小さい猫が
ニヤウ〓〓と
なれなれしくやつて來た。
足の尖に乘せて
ブランコをさせたり
膝に抱きあげて
頭なでたりしたのは
昨夜であつた。
今朝になつて
うちの猫を見ないかと
向ふ隣りのお孃さんがやつて來た。
それと知つてゐれば
昨夜お知らせする筈だつたと
ミツセス郡司が
しきりと氣をもむでも
あとのお祭。
可愛い猫の迷ひ兒は
國境こえて
メキシカリへ
ダンスに往つたか
ビール飮みに往つたか
バクチ打ちに往つたか
はたまた
メキシカンにさらはれたか
猫の迷ひ兒は
(一九二七年十一月二十九日)
いつまでたつても歸らない。
まだ人生の半ばに達しない
若き姉妹に
三人のおさなごと
一人の母とを與へて
一人の兄弟は
不治の病に倒れた。
晴れては又曇る
冬の空のごと
病は一進一退
はか〓〓しくゆかなかつた。
若く、 弱く
あまり肥つてもゐない
姉妹は
雄々しく立つた。
母を夫の看護にあて
自分は一日四弗の
家內勞働して
病める夫と
三人のおさなごと
母と自分とで
六人の家族を
細きかひなに支えた。
來る日、 來る日の
疲れも打ち忘れ
夫の好きな
讃美歌を習ひ來て
歌ひ慰むるを
無上の喜としてゐた。
もう數ヶ月たてば
床を離れ
共に
感謝の歌を捧げんと
喜びしは
夢か。
中秋の
日の足早く
シーラマデラの
山にかくれんとする
或日曜の夕まぐれ
忽然として
夫は天に 召された。
十分前に
妻の歌ひし
二百番の讃美歌を
此世の
名殘とし
「往くよ」 との强き言葉をあとにして。
あゝ
力は、 弱き器に宿るとき
最も强く
美は醜き形に潜むとき
最も麗はしい
信は不信の中に活きて
最も輝く。
弱くて强きは女性
貴きは母性
汝の中から
世の救主が生れる
私は
あなたの前に
合掌する。 (一九二七、 +、 二日)
セ ミテの瀧 ヨ
◇自然は大きく歌ふ
霧のヨセミテ
雪のヨセミテ
天までとゞけと
地殻を割つて跳り出た大きな岩
大地の
すべての力を合せて來ても
びくともしまいぞと云ふ顏して
どうつかと立ち並んでゐる
周圍の卒直な岩に〓へられてか
ひがまず、 ひねくれず
眞直ぐに立つた松の樹
私の心を笑ふ如く
勵ます如く並んでゐる
聖美と雄大と神秘とを
まぜなひたるヨセミテ
私の貧しき言葉にもるには
あまりに大きく美しく驚異に満ちてゐる
啞然、 茫然。
我を忘れて立てば
我に代りて
自然は歌ふ
我が目前に
ヨセミテの瀧
大太鼓、 小太鼓をそろへ
力一杯にたゝく
大太鼓の直徑一千四百三十呎
小太鼓の直徑三百二十呎
百雷の一時に落つるが如く
萬の腰皷をよせたるが如く
岩から岩へ
谷から谷へと響き
全地を湧かさんとしてゐる
この無雙の大オーケストラを伴奏として
マセド川は
谷間をくゞり
木の間を縫ひて
チヨロ〓〓と
ハイソエツツのヒブルメロデイにもまさり
いともユモレスクな氣持にて
愛人の甘きさゝやきのごと
さやかに歌ふ
わめくが如く、 叫ふが如き
大瀧の響きに
我胸は裂けんとす
泣くが如く、 訴ふるが如き
小川の流れに
我が胸は溶けんとす
聞けよ、 聞けよ
天地の大オーケストラ
自然は歌ふ
大きく歌ふ
九百二十七年十二月中旬、 木ノ下兄の御家族、 並に井上增吉
君と天下の偉觀ヨセミテに遊びて歌ふ)
◇エスターさん (五 歲)
ミシンのフロントで
栗鼠のごと
出ては引込み
引つこんでは出で
うしろをのぞく
エスターさん。
ころ〓〓と肥つた
頑丈なヨセフに
おさへられても
たゝかれても
姉さんぶつてだまつてゐる。
はげしく瞬をし
口をゆがめて
フロントの鏡にうつせば
それをのぞいて
鳩の如くクツクツと笑ふ。
ガムとアイスクリームがあれば
いつまでも
活きられると云ふ顏して
エスターさんの靨はほゝえむ。
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