人と海

上田敏

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こゝろ自由なる人間は、とはに賞づらむ大海を。 海こそ人の鏡なれ。灘の大波はてしなく、 水や天なるゆらゆらは、うつし心の姿にて、 底ひも知らぬ深海の潮の苦味も世といづれ。 さればぞ人は身を映す鏡の胸に飛び入りて、 眼に抱き腕にいだき、またある時は村肝の 心もともに、はためきて、潮騷高く湧くならむ、 寄せてはかへす波の音の、物狂ほしき歎息に。 海も爾もひとしなみ、不思議をつゝむ陰なりや。 人よ、爾が心中の深淵探りしものやある。 海よ、爾が水底の富を數へしものやある。 かくも妬げに祕事のさはにもあるか、海と人。 かくて劫初の昔より、かくて無數の歳月を、 慈悲悔恨の弛無く、修羅の戰酣に、 げにも非命と殺戮と、なじかは、さまで好もしき、 噫、永遠のすまうどよ、噫、怨念のはらからよ。

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