窓にもたれて

上田敏

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夜の紫の肩巾が ふはりと地の肩の上に滑り落ちる 黄昏の窓にもたれて 今夜もまた空の悲劇を見はじめると、 雲はけふどこへいつたか、 いつもの逢引にかげもみせない。 西方一面に和ぎわたり、 光いつとなく白んで薄れて、 さながら、あまりに脆く美しい花束が ちよいとのことにこぼれ散るやうだ。 夕影はいま山あひの虚の窪まで及んだが、 むかうの阜は入日のはての光を浴びて、 あのカナアンの國よりもなほ遠い 神の誓の郷のやうに照りわたる。 温柔の氣、水の如く中天に流れ跳つて、 一分一分の嬌めいて滑りゆくには、 つい、ぼんやりと、恍惚して了ふところを、 これではならぬと、やつとこさ、 胸の思をなだめて眠かす、 心いきの小歌もくひとめた。 おや、うしろの方でらんぷがつく。 見よ、大空の奧深く、 千萬年も倦んぜずに、また、こよひ、 ちろり、ちろりと見える、聞える、 色の數々顫はせた、星の光の節まはし。

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