壁
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壁に凭れば、
さてもあやしや。
かはたれの勤行に倦れたる、
尼僧の瞼の如く、
手ずれたる皮表紙の小皺の如も、
古くして靜なるもの、
やすやすと、
われに迫り來。
暗綠と深紅の、
エヂプト模樣の机かけ-
壁に凭れば、
さてものろはしや。
左右にひろがれる
暫者の耳の如く、
卑くして古きもの、
やすやすと
われをめぐる。
花形にちりばめたる、小匣の靑貝の如も、
さなり、
まぼろしの壁はとき色。
疑惑の後
かかる時、
月光の中なる君 が 頭に、
オウロラのかかれるかと見ゆる、
奇しき氣高さよ。
そは、
たはむれの如く前齒の間に、
そと漂ふ、
茴香の匂に似たる、
よき疑惑の後のひとときなり。
蒼白き一すぢ路よ、
やはらかき、
されど時々は足にまつはる敷物を、
月光の中より取りのぞきそ。
大正三年二月
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