母の文
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虫干の日に見出でしは
早く世に亡き母の文、
中風の手もて書きたれば
乱れて半ば読み難し。
わが三度目の産月を
案じ給へる情もて
すべて満たせる文ぞとは
薄墨ながらいと著し。
このおん文の着きし日に
我れは産をば終りしが、
二日の後に、俄にも
母は世に亡くなり給ひ、
産屋籠りの我がために
悲しき事は秘められて、
母なき身ぞと知りつるは
一月経たる後なりき。
我れに賜へるこの文が
最後の筆とならんとは、
母みづからも知りまさぬ
天の命運の悲しさよ。
あゝ、いましつる其世には、
母を恨みし日もありき。
いまさずなりて我れは知る、
母の真実の御心を。
否、母うへは永久に
世に生きてこそ在すなれ、
遺したまへる幾人の
子の胸にこそ在すなれ。
いざ見そなはせ、此に我が
思ふも母の心なり、
述ぶるも母の言葉なり、
歌ふも母の御声なり。
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