〔無題〕(『晶子詩篇全集拾遺』収録・同題第21篇)

与謝野晶子

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東京の正月の或日、 うれしくも恋しき人の手紙着けり。 「今わが船の行くは北緯一度の海、 白金色の月死せる如く頭の真上に懸り、 甲板に立てる人皆陰影を曳かず。」 「印度洋の一千九百十一年 十二月二日の日の出の珍しさよ、美くしさよ。 輝紅の濡れ色に 鮮かな橄欖青を混へし珍しさよ、美くしさよ。」 「二十の旋風器は廻れども、 食堂のあひも変らぬむし暑さ。 今宵も青玉色の長い裾を曳く 英吉利西婦人のミセス、ロオズが 人の目を惹く話しぶり。 それに流れ渡りの一人もの 素性の知れぬ諾威人が気を取られ、 果物マンゴスチインを下手に割れば 指もナフキンも紅く染む。」 かかることを数多書きて、 若やかに跳れる旅人の心うらやまし。 寒きかな、寒きかな、東京は 霙となりて今日も暮れゆく。

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