〔無題〕(『晶子詩篇全集拾遺』収録・同題第71篇)

与謝野晶子

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粛として静まり、 皎として清らかなる 昭和二年の正月、 門に松飾無く、 国旗には黒き布を附く。 人は先帝の喪に服して 涙未だ乾かざれども、 厚氷その片端の解くる如く 心は既に新しき御代の春に和らぐ 初日うららかなる下に、 草莽の貧女われすらも 襟正し、胸躍らせて読むは、 今上陛下朝見第一日の御勅語。    × 世は変る、変る、 新しく健やかに変る、 大きく光りて変る。 世は変る、変る、 偏すること無く変る、 愛と正義の中に変る。    × 跪づき、諸手さし延べ、我れも言祝ぐ、 新しき御代の光は国の内外に。    × 祖宗宏遠の遺徳、 世界博大の新智を 御身一つに集めさせ給ひ、 仁慈にして英明、 威容巍巍と若やかに、 天つ日を受けて光らせ給ふ陛下、 ああ地は広けれども、何処ぞや、 今、かゝる聖天子のましますは。 我等幸ひに東に生れ、 物更に改まる昭和の御代に遇ふ。 世界は如何に動くべき、 国民は何を望める、 畏きかな、忝なきかな、 斯かる事、陛下ぞ先づ知ろしめす。    × 我等は陛下の赤子、 唯だ陛下の尊を知り、 唯だ陛下の徳を学び、 唯だ陛下の御心に集まる。 陛下は地上の太陽、 唯だ光もて被ひ給ふ、 唯だ育み給ふ、 唯だ我等と共に笑み給ふ。    × 我等は日本人、 国は小なれども 自ら之れを小とせず、 早く世界を容るるに慣れたれば。 我等は日本人、 生生として常に春なり、 まして今、 華やかに若き陛下まします。    × 争ひは無し、今日の心に、 事に勤労む者は 皆自らの力を楽み、 勝たんとしつる者は 内なる野人の心を恥ぢ、 物に乏しき者は 自らの怠りを責め、 足る者は他に分ち、 強きは救はんことを思ふ。 あはれ清し、正月元日、 争ひは無し、今日の心に。    × 眠りつるは覚めよ、 怠みつるは引き緊まれ、 乱れつるは正せ、 逸れつるは本に復れ。 他の国には他の振、 己が国には己が振。 改まるべき日は来る、 夜は明けんとす、東に。    × 我等が行くべき方は 陛下今指さし給ふ。 止めよ、財の争ひ、 更に高き彼方の路へ 一体となりて行かん。

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