親の家
本文の表示
目にこそ浮べ、ふるさとの
堺の街の角の家、
帳塲づくゑと、水いろの
電気のほやのかがやきと、
店のあちこち積み箱の
かげに居睡る二三人。
この時黒き暖簾より
衣ずれもせぬ忍び足
かいま見すなる中の間の
なでしこ色の帯のぬし、
あな、うら若きわが影は
そとのみ消えて奥寄りぬ。
ほとつく息はいと苦し、
はたいと※し、さはいへど
ふた親いますわが家を
捨てむとすなる前の宵
しづかに更くる刻刻の
時計の音ぞ凍りたる。
一番頭と父母と
茶ばなしするを安しと見、
こなたの隅にわが影は、
親を捨つると恋すると
繁き思をする我を
あはれと歎き涙しぬ。
よよとし泣けば鈴鳴りぬ、
電話の室のくらがりに
つとわが影は馳せ入りて
茶の間を見つつ受話器とる。
すてむとすなるふるさとの
和泉なまりの聞きをさめ。
人の声とは聞きしかど、
ただわがための忘れぬ日
楽しき日のみ作るとて、
なにの用とも誰ぞとも
知らず終りき。明日の日は
長久に帰らぬ親の家。
ログインすると、お気に入り登録や選集への追加ができます。
ログインすると、この作品に自分だけに見えるメモを残せます。
親の家の談話
疑問や連想、ちょっとした読み方などを気軽に話せます。
まだ投稿はありません。
親の家に寄せられた作品
詩から生まれた翻案・イラストや、朗読・解説などの関連リンクを持ち寄れます。
まだ投稿はありません。
批評・感想 0
作品の表現や構成を検討し、根拠を示しながら評価・講評する場所です。
まだ批評・講評はありません。
ログインすると批評・講評を書けます。