旅中
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小蒸汽の艫、
ここに立ちて
後ろを見れば、
過ぎ去る、
過ぎ去る、
逃げるやうに過ぎ去る
わたしの小蒸汽。
後ろに長く引くのは、
板硝子のやうな航跡、
その両側に
船底から食み出した浪が
糊を附けて硬ばつた
藍色の布の
襞と皺とを盛り上げる。
ぱつと白く、
そのなかに、遠ざかる
港の桟橋を隠して、
レエスの網を跳ね上げる飛沫。
また突然に沢山のSの字が
言葉のやうに呟いて
やがて消えゆく泡。
陸から、人から、
貧乏から、筆から、
わたしの平生から、
ああ、かうして離れるのは好い。
過ぎ去る、
過ぎ去る、
わたしの小蒸汽。
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