情緒よ! 君は歸らざるか

萩原朔太郎

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 書生は町に行き、工場の下を通り、機關車の鳴る響を聽いた。火夫の走り、車輪の𢌞り、群鴉の喧號する巷の中で、はや一つの胡弓は荷造され、貨車に積まれ、さうして港の倉庫の方へ、税關の門をくぐつて行つた。  十月下旬。書生は飯を食はうとして、枯れた芝草の倉庫の影に、音樂の忍び居り、蟋蟀のやうに鳴くのを聽いた。  ――情緒よ、君は歸らざるか。

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