惡い季節

萩原朔太郎

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薄暮の疲勞した季節がきた どこでも室房はうす暗く 慣習のながい疲れをかんずるやうだ 雨は往來にびしよびしよして 貧乏な長屋が竝びてゐる。 こんな季節のながいあひだ ぼくの生活は落魄して ひどく窮乏になつてしまつた 家具は一隅に投げ倒され 冬の 埃の 薄命の日ざしのなかで 蠅はぶむぶむと窓に飛んでる。 こんな季節のつづく間 ぼくのさびしい訪問者は 老年の よぼよぼした いつも白粉くさい貴婦人です。 ああ彼女こそ僕の昔の戀人 古ぼけた記憶の かあてんの影をさまよひあるく情慾の影の影だ。 こんな白雨のふつてる間 どこにも新しい信仰はありはしない 詩人はありきたりの思想をうたひ 民衆のふるい傳統は疊の上になやんでゐる ああこの厭やな天氣 日ざしの鈍い季節。 ぼくの感情を燃え爛すやうな構想は ああもう どこにだつてありはしない。

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