なぜ怖いか(大正十二年頃のもの*)
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1
影法師は暗い処に居るから嫌です。ひよいと飛び出して私を抱へてつれて行かうと思つて樹や垣根の蔭に隠れて居るのです。
2
獅子の笛は金色だからいけないのです。あんなによく慄へる細い音はすぐ私のまつ青の顔を遠くから嗅ぎつけてしまひます。
3
猫の眼は美しすぎるのが悪いのです。あんまりよく光るものは気味のいいものではないし、その上あの啼き声があんな風に恨めし気なのですもの。
4
婆さんのおはぐろや女の人の金歯は虫か何かのやうに見えるからたまらないのです。それに笑ひ出すとその虫がぐちや/\動くのです。
5
気違ひや不具などは見ただけで私を憎んで居るのがわかります。あんなへんてこな手つきで殺されると大変だから私は逃げるのです。
*編注――大正十五年九月、家庭内同人誌『沈丁花』一号掲載
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