早春
本文の表示
日は低く、 雜草の、 日に透く靑い莖立ちも低く、 -そのあたり、 あは
い蔭と日向の入りまじる、 水ともみえない水の上に、 私は身を投げる。
私は次第に沈んでゆく。 私はそこによこたはる。 この水底から、 さむざ
むと、 空がみえる。 右ひだり、 耳のほとりに音立てて、 風が吹き過る、
澄み透つた靑さを擾して。 私は眼を閉ぢる。 私のなかに、 傾いた木の影
が倒れて來る、 枯れた木の葉が降つて來る、 ちぎれ雲が、 行人の影が、
さまざまな芝居の背景が、 とりどりの大情小感を書き薙ぐつた文反古が
しづけさのなかの、 この涯しないさわがしさ。 私は自分の手を握る、
この血に、 この肉に、 絕えず閉ざされてゐるものの手を。 この日頃、 こ
の血の、 この肉の、 -この空の、 この淵の、 -親しさ、 切なさ、 疎
ましさ。 あたたかく、 寒く、 柔らかに、 -見知らぬ人の來て、 危い水
底へ、 私を搬ぶ、 私を搬ぶ、 風の手で、 水の手で。 ああ、 この遙かな道
行。 ······わななきながら、 私は身を起す。 覺め果てたこの眼に、 ただ、
雜草の靑い莖立ちが、 いちめんに寫る。
ログインすると、お気に入り登録や選集への追加ができます。
ログインすると、この作品に自分だけに見えるメモを残せます。
早春の談話
疑問や連想、ちょっとした読み方などを気軽に話せます。
まだ投稿はありません。
早春に寄せられた作品
詩から生まれた翻案・イラストや、朗読・解説などの関連リンクを持ち寄れます。
まだ投稿はありません。
批評・感想 0
作品から読み取ったことや、自分の中に生まれた感覚をまとまった文章で残す場所です。
まだ解釈・感想はありません。
ログインすると解釈・感想を書けます。