海の聲

伊良子清白

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いさゝむら竹打戰ぐ 丘の徑の果にして くねり可笑しくつら/\に しげるいそべの磯馴松 花も紅葉もなけれども 千鳥あそべるいさごぢの 渚に近く下り立てば 沈みて青き海の石 貝や拾はん莫告藻や 摘まんといひしそのかみの 歌をうたひて眞玉なす いさごのうへをあゆみけり 波と波とのかさなりて 砂と砂とのうちふれて 流れさゞらぐ聲きくに いせをの蜑が耳馴れし 音としもこそおぼえざれ 社をよぎり寺をすぎ 鈴振り鳴らし鐘をつき 海の小琴にあはするに 澄みてかなしき簫となる 御座の灣西の方 和具の細門に船泛けて 布施田の里や青波の 潮を渡る蜑の兒等 われその船を泛べばや われその水を渡らばや しかず纜解き放ち 今日は和子が伴たらん 見ずやとも邊に越賀の松 見ずやへさきに青の峰 ゆたのたゆたのたゆたひに 潮の和みぞはかられぬ 和みは潮のそれのみか 日は麗らかに志摩の國 空に黄金や集ふらん 風は長閑に英虞の山 花や縣をよぎるらん よしそれとても海士の子が 歌うたはずば詮ぞなき 歌ひてすぐる入海の さし出の岩もほゝゑまん 言葉すくなき入海の 波こそ君の友ならめ 大海原に男のこらは あまの少女は江の水に さても縑の衣ならで 船路間近き藻の被衣 女だてらに水底の 黄泉國にも通ふらむ 黄泉の醜女は嫉妬あり 阿古屋の貝を敷き列ね 顏美き子等を誘ひて 岩の櫃もつくるらん さばれ海なる底ひには 父も沈みぬちゝのみの 母も伏しぬ柞葉の 生れ乍らに水潛る 歌のふしもやさとるらん 櫛も捨てたり砂濱に 簪も折りぬ岩角に 黒く沈める眼のうちに 映るは海の泥のみ 若きが膚も潮沫の 觸るゝに早く任せけむ いは間にくつる捨錨 それだに里の懷しき 哀歌をあげぬ海なれば 花草船を流れすぎ をとめの群も船の子が 袖にかくるゝ秋の夢 夢なればこそ千尋なす 海のそこひも見ゆるなれ それその石の圓くして 白きは星の果ならん いまし蜑の子艪拍子の など亂聲にきこゆるや われ今海をうかがふに とくなが顏は蒼みたり ゆるさせたまへ都人 きみのまなこは朗らかに いかなる海も射貫くらん 傳へきくらく此海に 男のかげのさすときは かへらず消えず潛女の 深き業とぞ怖れたる われ微笑にたへやらず 肩を叩いて童形の 神に翼を疑ひし それもゆめとやいふべけん 島こそ浮べくろ/″\と この入海の島なれば いつ羽衣の落ち沈み 飛ばず翔らず成りぬらむ 見れば紫日を帶びて 陽炎ひわたる玉のつや つや/\われはうけひかず あまりに輕き姿かな 白ら松原小貝濱 泊つるや小舟船越の 昔は汐も通ひけん これや月日の破壞ならじ 潮のひきたる煌砂 うみの子ならで誰かまた かゝる汀に仄白き 鏡ありとや思ふべき 大海原と入海と こゝに迫りて海神が こゝろなぐさや手すさびや 陸を細めし鑿の業 今細雲の曳き渡し 紀路は遙けし三熊野や 白木綿咲ける海岸に 落つると見ゆる夕日かな

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