佐太大神
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加賀神崎即有窟、高一十丈許、周五百二歩許、東西北通。
○所謂佐太大神之所産生處也、所産生臨時、弓箭亡坐、爾時御祖神魂命之御子、枳佐加比比賣命、願吾御子麻須羅神御子座者、所亡弓箭出來願坐、爾時角弓箭、隨水流出、爾時所産御子詔、此者非吾弓箭詔而、擲廢給、又金弓箭流出來、即待取之坐而、闇鬱窟哉詔而射通坐、即御祖支佐加比比賣命社坐此處、今人此窟邊行時、必聲※磕而行、若密行者、神現而飄風起、行船者必覆也。
出雲風土記
こころ愁ひあれば枳佐加比比賣
涙もいと熱くひとり迷へり、
天なる神魂御祖をしのび、
暗き潮めぐる海の窟に
嘆くとき聲あり、――
『暗きかも、暗きかも、
嗚呼暗きかもこの窟。』
愁ひに堪へかねて枳佐加比比賣、――
『あはれすべきかな、蒼海原の
あやしき調奏る神こそ知らめ、
失せつる生弓箭浪やかくせる。』
この時聲はまた、――
『暗きかも、暗きかも、
嗚呼暗きかもこの窟。』
いとも醜き魂は浪に動き、
大海原まさにどよみわたりて、
飄風空より落ち、雲うち亂れ、
潮は火の如く渚に燃えぬ。
聲はまたこの時、――
『暗きかも、暗きかも、
嗚呼暗きかもこの窟。』
『さはあれ、うるほへる胎の園生、
光の種子は裂け神の御裔と
生れまさむ吾御子益荒男ならば、
失せにし生弓箭のあらはれ來よ』と、
祷る時聲また、――
『暗きかも、暗きかも、
嗚呼暗きかもこの窟。』
海しばし靜まり、浪より浪、
沖邊より磯邊に流るる弓箭。――
祈祷に伏し沈む枳佐加比比賣の
聖き精の宿りこの時ひらけ、
いみじき聲高く、――
『暗きかも、暗きかも、
嗚呼暗きかもこの窟。』
嗚呼生れましにける佐太の御神、
猛くかたき光は海にかがやき、
浪よりあらはれし角の弓箭の
『こはわがものならじ去ねよ、』と詔らす
御聲はくもりなく、――
『暗きかも、暗きかも、
嗚呼暗きかもこの窟。』
海また平らぎて、浪より浪、
沖邊より磯邊に寄せ來る弓箭、
黄金の裝ひかがやき流れ、
高潮みだれうつ闇に映れど、
御聲はまたさらに、――
『暗きかも、暗きかも、
嗚呼暗きかもこの窟。』
嗚呼天の御裔の御子大神、
この時浪間より流れいでける
黄金生弓たかく手握り持たし、
かがやく黄金御征矢弓筈につがひ、
窟戸にたたして、――
『暗きかも、暗きかも、
嗚呼暗きかもこの窟。』
こころ歡びぬれば枳佐加比比賣、
吾御子讃むる時弓絃響きて、
征矢射通しゆけば天の香あふれ、
大海華のごと飜へりけり。
さて御聲さはやかに、
『光あれ荒磯邊、
佐太大神われたてり。』
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