良き夜

川路柳虹

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快く雨は土に匂へり、 九月の宵のふかみゆく草のかげ、 ひそかに祈りするものゝ如く 心こめたる肅ましき歌に 世界は蟲の響となる。 時計の音も靜かな宵かな、 われ足音を立てずとも しだいに迫りくる空氣は なにものか力ある聲に叫き、 新しき果物の匂ひの 濕りたる土より息をはなてば 涼しき瞳は隱れたるところに笑へり。 われに軛をかくるものなし、 われに作を〓ゆるものなし、 風のきたればしづかに 簷ばの風鈴は鳴るごとく、 われあたへられたるものを正しく わが心のまゝに響かせむ。 快く、 しづかに 雨は永遠の世に煙れり、 われ灰色の衣をぬぎすてゝ ねがはくばねぢけたる微笑を わが神のまへにほどかむ。

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