朝靄の中

北原白秋

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靄のふかい朝、子供が 小舟を動かしてゐる。ああ、二人だ。 ここは潮来の出はづれ、 沼から沼へとかよふ水路だ。 ほう、むぐっちょが鳴いている。 水面が明つて来る。 子供は聴いてゐる、一人は舳で、 一人は掻いてゐる、小さな櫂で。 うすら寒うてもよい湿りだ、 どこかに日の光もある。 柳のなびきも青うなつた。 低い田圃も犁かれて来た。 ほうつと、どこかで火を燃してる、 誰だか焼いてゐるのだ、葦の根を。 風が来た、いや、土のかをりが通つた。 おお、もう春が動いてゐるのだ。 彼等はいつしよにのめりかかつた。 とても大きなたんぽぽが咲いてる。 靄のふかい朝、むぐっちょが鳴き、 子供は小舟で取つ組んでる。

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