墓地

北原白秋

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墓地は嗟歎の、愛の園、 また、思ひ出の樫の森。 墓地は現の露の原、 また、幽世の苔の土。 墓地は童の草の庭、 また、あひびきの青葉垣。 墓地はそよ風しめじめと、 また、透き明る日のこぼれ。 墓地は幽けき花だまり、 また、むら鳥の木のたむろ。 墓地は薄黄の石だたみ、 また、奥ふかき朴の門。 墓地は銀杏の片かげり、 また、白毫の濡れ仏。 墓地は香華の色の海、 また、象なき声の網。 墓地は無縁の草いきれ、 また、ねもごろの水かげろふ。 墓地に光るは虫のはね、 また、手相見の天眼鏡。 墓地の迷ひ路、間の辻、 また、横の柵、裏の道。 墓地の遊歩は爽やかに、 また、行きつまる石の寂。 墓地にも目だつ世の流行、 また、消えのこる江戸のふり。 墓地を通ふは女靴、 また、ゆきずりの製図工。 墓地の円屋根、納骨堂、 また、反青き塔のつま。 墓地は息づく靄の胎、 また、たましひの巣のしじま。 墓地は欠けゆく月の道、 また、太陽の眼のやどり。 墓地は乳屋の朝の時、 また、ちゃるめらの暮の時。 墓地はよき森、よき廊下、 また、なぐさめの笻の道。 墓地はよき庭、わが門べ、 わが賓客のよき小径。

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