華のかげ

北原白秋

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時は夏、血のごと濁る毒水の 鰐住む沼の真昼時、夢ともわかず、 日に嘆く無量の広葉かきわけて ほのかに青き青蓮の白華咲けり。 ここ過ぎり街にゆく者、―― 婆羅門の苦行の沙門、あるはまた 生皮漁る旃陀羅が鈍き刃の色、 たまたまに火の布巻ける奴隷ども 石油の鑵を地に投げて鋭に泣けど、 この旱何時かは止まむ。これやこれ、 饑に堕ちたる天竺の末期の苦患。 見るからに気候風吹く空の果 銅色のうろこ雲湿潤に燃えて 恒河の鰐の脊のごとはらばへど、 日は爛れ、大地はあはれ柚色の 熱黄疸の苦痛に吐息も得せず。 この恐怖何に類へむ。ひとみぎり 地平のはてを大象の群御しながら 槍揮ふ土人が昼の水かひも 終へしか、消ゆる後姿に代れる列は こは如何に殖民兵の黒奴らが 喘ぎ曳き来る真黒なる火薬の車輌 掲ぐるは危嶮の旗の朱の光 絶えず饑ゑたる心臓の呻くに似たり。 さはあれど、ここなる華と、円き葉の あはひにうつる色、匂、青みの光、 ほのほのと沼の水面の毒の香も 薄らに交り、昼はなほかすかに顫ふ。 四十年十二月

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