入日の壁

北原白秋

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黄に潤る港の入日、 切支丹邪宗の寺の入口の 暗めるほとり、色古りし煉瓦の壁に射かへせば、 静かに起る日の祈祷、 『ハレルヤ』と、奥にはにほふ讃頌の幽けき夢路。 あかあかと精舎の入日。―― ややあれば大風琴の音の吐息 たゆらに嘆き、白蝋の盲ひゆく涙。―― 壁のなかには埋もれて 眩暈き、素肌に立てるわかうどが赤き幻。 ただ赤き精舎の壁に、 妄念は熔くるばかりおびえつつ 全身落つる日を浴びて真夏の海をうち睨む。 『聖マリヤ、イエスの御母。』 一斉に礼拝終る老若の消え入るさけび。 はた、白む入日の色に しづしづと白衣の人らうちつれて 湿潤も暗き戸口より浮びいでつつ、 眩しげに数珠ふりかざし急げども、 など知らむ、素肌に汗し熔けゆく苦悩の思。 暮れのこる邪宗の御寺 いつしかに薄らに青くひらめけば ほのかに薫る沈の香、波羅葦増のゆめ。 さしもまた埋れて顫ふ妄念の 血に染みし踵のあたり、蟋蟀啼きもすずろぐ。 四十一年八月

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